『私という猫』は、Xで13万いいねの反響を巻き起こした『ポッケの旅支度』(KADOKAWA)のイシデ電さんが2007年から2019年にかけて描き、自身のブログで発表した野良猫たちの苛烈かつ鮮烈な生を描いた作品です。『私という猫 完全版』は、過去に全3巻の単行本が刊行され、その後入手困難になっていた幻冬舎コミックス版を1冊にまとめ、加筆修正や変更を加え、著者あとがきを収録したものです。本作は、「もしも私(著者)が猫だったなら」というモノローグから始まります。ただし、「人間の知識で窮地を脱する」的ファンタジー展開は一切なく、むしろイシデさんの前世が野良猫であったかのような、リアルな野良猫社会が描かれます。実は、「もしも私が猫だったなら」という設定は、読者にそう思わせる仕掛けや、内容のために考えられたものではありません(その理由は著者あとがきに書かれています)。実際、物語は人間の「私」と無関係に進んでいきます。ただし、そうでありながら、本作は「もしも私が猫だったらば」と描き始めた時点で、こう終わらせると決まっていたかのようなラストを迎えます。また完結に至る道中には「ただ生きること」の価値や美しさが織り込まれています。とはいえ、野良猫「私」の猫生は、ただ辛いだけのものではありません。かわいい内容を期待して読むと、喜怒哀楽を全身に浴びて火傷するような異形の猫マンガですが、喜も楽もあります。「私」とその仲間たちの躍動感溢れるアクションや、コミカルな掛け合いも盛りだくさんです。厳しくも楽しい、悲しくも美しい、唯一無二にして空前絶後の猫生讃歌です。ぜひご一読ください。